第1回生涯学習研修集会

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情動・報酬系へのアプローチ
-覚醒、能動的発動を活性化させ自分の考えに基づいた動機を生みだすー

冨田 昌夫(藤田医科大学保健衛生学部)

【はじめに】

私たちは生後1.5~2年の時間をかけて環境に働きかけて探索することで、まずは重力へ、続いて空間へも適応しながら自己を定位し、基本動作を確立して環境に住み込んでいきます。この要素的な動作を利用して、転倒転落せずに目的が遂行できるようになるだけでなく、不快や痛みを伴う運動や動作を回避するような行動の仕方も身に着けられるのです。しかし、環境への適応とは重力から解放されることでも、痛みや不快から解放されることでもありません。私たちは日常生活を送るうえで、たまにしかやらないことをするときには「転ぶなよ!落ちたら大変!痛いぞ!」など声掛けする時が少なくありません。常に転倒転落の危険や痛みに対する恐怖と闘いながら生活しているのです。運動機能が損傷され、動くことに自信を持てなくなったり、動こうとすると不快や痛みを感じたり、精神的にも不安や苦痛を感じたら私たちはどのように行動するでしょうか?残された運動機能を最大に発揮し、一生懸命に頑張って新しいことを学習していけるでしょうか?患者の主観に基づいた不安や恐怖、動機付けといった情動系や報酬系への働きかけをどのように行っているでしょうか?一緒に考えてみたいと思います。

【患者の抱える問題】

病気や怪我で自信をなくし、不安になっている患者では物理的な安定、運動学的な安定あるいは神経生理学的な機能とは関係なく、意識に上らないまま(無自覚に)“安全安心を求めた行動”が自己保存の反応や防衛反応として出現してしまいます。自信がなく、不安や恐怖を感じるときにはこれで大丈夫という安心感が得にくいので、安全安心を求めた行動はいつの間にか過剰になってしまいます。過剰な防衛反応の出現は過剰な安定やネガティブな発想を生み出してしまいます。本来は身を守る防衛反応ですが、過剰になると身を亡ぼす危険さえ生じてしまいます。

回復期という患者もセラピストも機能改善に取り組む体制が最も整った病棟でさえ、半数おそらくそれよりもずっと多くの患者が自ら発動し、積極的に機能改善に取り組むことができない状態で、残された運動機能や動作能力を十分に発揮できずに過ごしているのではないでしょうか?“残存した機能すら使うことができずに潜在化させてしまっている”のです。これが患者の最大の問題であると考えます。

過剰な防衛反応を示す患者へのアプローチ

このような患者に対して、私たちは評価と称してできない動作を見つけ出し、できない動作を繰り返し練習しています。できないことを繰り返す治療は意識に上らないまま"安全安心を求めた行動”をしてしまう患者に対して有効なアプローチとなり得るのでしょうか?不安や恐怖を取り除き、やりたいという動機を持てるようにすることが先決ではないでしょうか?能動性を引き出すために5つの具体的な提案をしながら、脳幹部へのアプローチを中心にした治療活動を練習してみたいと考えています。

本研修の狙い
情動報酬系の働きを学び、動作の学習に活用する方法を理解する。
身につける能力
  • 動作の学習理論に関して再考する必要性を理解し、基本動作と日常動作を別なものとして区分することの重要性を知ることができる。
  • 報酬系の働きと意欲、動機、発動の関連を理解し、動作をキャリーオーバーさせるための手法を知ることができる。
  • 不安や自信の喪失から生じる姿勢や動作の特徴をクリニカルにリーズニングする手法を知ることができる。
  • 安全・安心を再構築し、残存能力を潜在化させないための手法を知ることができる。
略歴
1968年茨城大学工学部 電子工学科卒業
1975年国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院 理学療法科 卒業
神奈川リハビリテーション病院勤務
1981年スイス バレンツ病院 勤務
1986年神奈川リハビリテーション病院 勤務
2003年藤田保健衛生大学 衛生学部看護学科 教授
2004年同 衛生学部リハビリテーション学科 教授
2008年同 医療科学部リハビリテーション学科 教授
2008年同 大学院保健学研究科 教授
2012年同 医療科学部リハビリテーション科、大学院保健学研究科 客員教授
2012年佛教大学 保健医療技術学部 客員教授
2017年佛教大学客員教授退官
現在に至る

事務局

第31回大阪府理学療法学術大会 事務局

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