第1回生涯学習研修集会

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理学療法における臨床研究のすすめ
-研究計画から論文執筆まで-

奥 壽郎(大阪人間科学大学 人間科学部 理学療法学科)

本研修会では理学療法の発展とともに対象者へ質の高い理学療法を提供するために、多くの理学療法士が研究活動に触れることを目標としている。シリーズ第1講は、何故研究が必要なのか,どんな領域があるのか,研究活動の入り口について解説する。

① 理学療法と研究

理学療法の専門性及びEBPT( Evidence-based Physical therapy)の概念から考えると、理学療法士は、研究を実践しその成果を臨床で提供し、結果を吟味する繰り返しである。

② 理学療法の研究領域

日本理学療法士協会では、日本理学療法士学会を設立し12の分科学会を設けている。理学療法の研究領域も分科学会の区分に応じて分類されることが一般的である。

③ 研究の進め方

研究を行うには、人手や時間,費用が必要になる。これらを無駄にしないためには、あらかじめ研究テーマを明文化し、研究手順や期間などを具体的に記載した研究計画書を作成することが必要である。

④ 研究テーマとPICO

クリニカルクエスチョン(clinical question)とは,臨床的疑問のことであり,病態・評価・治療・リスク・予防に関するものなど様々な領域がある。クリニカルクエスチョンに関連する研究論文を検索する。文献検索には、PubMedサイトや医中誌webなどを利用し、できる範囲で探すというのが基本である。

次にこのクリニカルクエスチョンを、PICOの基準にそって定式化し、研究課題としてリサーチクエスチョン(research question)にする。

⑤ 研究デザインとエビデンスレベル

研究デザインは様々な視点で分類される。大分類として、記述的研究と分析的研究がある。後者はさらに、観察的研究と実験的(介入的)研究に分けられる。また、これらの分類に対し時間的要因による分類として、横断研究と縦断研究があり、後者はさらに前向き研究と後ろ向き研究に分けられる。割り付けによる分類では、比較対象の有無,比較対象がある場合にはランダム化されているか否かで分けられる。研究デザインによって、エビデンスレベルが段階づけられている。この段階づけによると、エビデンスレベルが一番高い研究デザインは、複数のランダム化比較試験であり、逆に低い研究デザインは総説である。

本研修の狙い
  • 本研修会をきっかけに研究チームを設置することによって、エビデンスレベルが高い研究が可能となる。
  • 現在より臨床現場での研究活動の拡大を図る。
  • 臨床現場の理学療法士1人1人が、臨床場面での疑問を解決する能力を身につけることによって、理学療法学の進歩,利用者への還元などに寄与する。
身につける能力
  • 介護保険下における理学療法現場において、臨床実習的疑問を発見することができる。
  • 疑問を解決するための研究心を養うことができる。
  • 疑問を解決するための研究チームを構築することができる。
  • 研究計画を立案することができる。
  • 研究計画に基づき、調査・実験を実施することができる。
  • 研究結果考察し、学会にエントリーし発表することができる。
  • 学会においてアドバイスを受けた内容を加味し、雑誌に投稿し論文とすることができる。
  • 研究結果を臨床現場に活かすことができる。
  • 以上の研究活動を、後輩に指導することができる。
略歴
1987年:高知リハビリテーション学院理学療法学科卒業
同年4月より聖マリアンナ医科大学病院,聖テレジア病院で臨床に従事
2003年~臨床福祉専門学校,帝京科学大学,宝塚医療大学に勤務
2017年より大阪人間科学大学人間科学部理学療法学科教授,現在に至る
谷埜 予士次(関西医療大学 保健医療学部)

理学療法における臨床研究は、客観的な理学療法評価法の確立、効果的な運動療法や機器の開発などに寄与し、患者さんの生活の質を向上させることを目的に実施されるものとなります。しかしながら、いきなりこのような意気込みで臨床研究を始めるのも荷が重いと感じるかも知れません。日常の臨床業務中、何かしら疑問に思うことがあると思います(些細なことでも)。そう思えることが1つでもあるならば、それについて探究してみる、すなわち臨床研究にトライしてみるチャンスであり、この行動が理学療法の発展に貢献すると思われます。本研修会のシリーズ第2講は、(1)研究法の種類(疑問をモデル化する)、(2)文献検索の方法(エビデンスの検索)についての解説であり、臨床で疑問を感じた場合にどのように研究計画立案へと展開するかの糸口を提供できればと思います。

(1)研究法の種類(疑問をモデル化する)

臨床現場で理学療法を実施している上で起こる疑問はClinical Question: CQといいます。CQは漠然としたものかも知れませんが、このCQについて深く考えることによって、疑問を検証する形にするようResearch Question: RQへと展開します。このRQの設定や確認については、PICO(Patient, Intervention, Comparison, Outcome)による疑問の定式化を行います。PICOは本研修会の第1講で詳細を学んでいるため、ここでは確認程度にとどめておきますが、このPICOを活用することによってCQを検証可能な形に整理し、研究計画立案へとつなげます。さらにCQを検証するための研究方法や、どのデザインに適応するのかについても考えます。この点の詳細については本研修会の第3講で解説いただきます。

(2)文献検索の方法(エビデンスの検索)

臨床研究を始める前(研究計画立案時)に、類似した先行研究について調べることなく研究を開始することはないと思います。また、文献を検索することによって知見が得られ、CQが解決することもあります。CQをPICOによって整理すると同時に、類似した先行研究についてレビューする作業が必要になります。これによってこれから実施する研究のオリジナリティーはどこにあるか、また予想される結果や研究の限界などについて検討します。文献検索はオンライン医学文献検索サービスを利用することで容易になります。日本理学療法士協会EBPTチュートリアルのページ(エビデンスを検索するには)にもデータベースが紹介されています。文献検索の際は英語論文から検索することが理想的であると思いますが、この時点で作業が滞ってもいけませんので、最初は日本語論文の検索から始めても構いませんし、チームで協力して乗り切る必要があるでしょう。

【研究内容等】

電気生理学的および身体運動学的に、理学療法の効果を検証するための研究を行っています。特に下肢の筋力強化練習に応用するための研究を行っています。

https://researchmap.jp/read0133170

本研修の狙い
臨床現場で理学療法を実施していく中で、疑問に感じる点(クリニカルクエスチョン)がしばしばあると思います。そんな疑問点を解決していくことで、自ら実施した理学療法に根拠を持てるだけではなく、やがて大きな効果を生む理学療法の発見につながるかも知れません。
本研修会では臨床研究という手段を通して、自らの臨床業務で生じた疑問点を解決できるようになることを目的に、研究のすすめ方について学習することを目的とします。
身につける能力
  • (1)研究法の種類について理解する。
  • (2)研究に関する文献を検索できる。
  • (3)その他に、研究を紹介するなかで主に方法論の作成について理解する。
略歴
1997年関西医療学園専門学校 理学療法学科 卒業
2003年大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科 博士前期課程修了 修士(スポーツ科学)
2012年博士(医学)号取得(関西医科大学)
専門理学療法士(基礎理学療法)
主に筋電図を用いた運動学的解析を中心に研究を実施
松木 明好(四條畷学園大学リハビリテーション学部 理学療法学専攻)

【抄録本文】

本講義シリーズの受講目標は、「理学療法分野における臨床研究を立ち上げ、論文としてまとめて出版すること」です。その目標に向けて構成されている本シリーズの第3講にあたる本講義では、その過程で必要となる最低限の(1)研究デザイン、(2)データ収集、(3)統計解析、(4)倫理的配慮について学ぶことを目標としています。

(1)研究デザイン:本講義までにクリニカルクエスチョンをリサーチクエスチョン(RQ)に発展させる基礎を学んでいると思います。次は、そこで得られたRQに答えを与える具体的な方法=デザインについて学びます。研究デザインは研究途中で変更することができませんので、開始前に慎重に検討する必要があります。特に、「その方法で答えは得られるのか?」についてよく相談しておきましょう。また費用、時間、エフォート等の観点から、完遂可能かを検討しておく必要があります。理学療法分野でよく用いられる代表的な研究デザインを予め理解し、自己のRQにあったものを選択できることを目指しましょう。

(2)データ収集:データ収集を開始する前に、「いつ」「何を」「どれくらい」集めるのかを検討する必要があります。「いつ」はデザインによります。「何を」、つまりアウトカムはRQに合わせて先行研究、ガイドライン、Rehabilitation Measures Database等を参考に選択しましょう。また、サンプリングの過剰負担や検定における過誤(第1種、第2種)を回避するために、必要十分なサンプルサイズを事前検討しておくことが望ましいです。その他にも検討する事項はありますが、ひとまず「いつ」「何を」「どれらくい」を決められるようになりましょう。

(3)統計解析:統計学の理論に従い、得られたデータから母集団の様相の推定、および仮説検定を行います。「目的」(何を知りたいのか)と取り扱う「データの種類」から、自己のRQ、研究デザインに合う手法が選択できるようになりましょう。実際の計算はソフトウェアを使うことになります。それぞれ価格や使用難易度が異なりますので、自分が扱える現実的なものを選択できるようになりましょう。

(4)倫理的配慮:人を対象とする医学研究では、その多くのプロセスに倫理的配慮を要します。一般的な理学療法研究では、立案された研究計画は研究倫理審査を受け、ヘルシンキ宣言に則って実施することが望ましいと考えられます。研究倫理に関するさらなる学習は講義で紹介するe-learningを活用してください。研究倫理委員会で審査を受けるための申請書類についても学び、その概要が説明できるようになりましょう。

上記に関連する研究スキルを獲得するためには基礎知識の学習と実践が必要です。講義で概要を掴み、紹介する本等を使って学習を進め、できるだけ早く実践できるようになりましょう。

【研究内容】

研究キーワード:前庭、小脳、姿勢制御、運動制御、協調運動、眼球運動、脊髄反射、バランストレーニング、運動イメージ、感覚貢献度、可塑性、電気刺激、経頭蓋磁気刺激、経頭蓋直流電気刺激、重心動揺、脳卒中、二重課題、在宅介護スコア、Functional independent measure、転帰予測、脊髄小脳変性症

詳しくは下記URLから論文アブストラクト、学会抄録にアクセスしてください。

https://researchmap.jp/matsugi/

【研究項目】

神経疾患症例を対象とした観察研究、介入研究、尺度関連研究、および運動制御に関する実験研究。

本研修の狙い
  • (1)理学療法分野で用いられる代表的な研究デザインを学ぶ。
  • (2)配慮すべき研究倫理について、概要を学ぶ。
  • (3)デザインに即したデータ収集方法を学ぶ。
  • (4)理学療法分野でよく用いられる代表的な統計処理方法を学ぶ。
身につける能力
  • (1−1)代表的な研究デザインを説明できるようになる。
  • (1−2)自己のクリニカルクエスチョンに合う研究デザインを選択し、研究計画書のアウトラインを想定できる。
  • (2−1)配慮すべき研究倫理について簡単に説明ができる。
  • (2−2)研究倫理委員会に提出する審査書類に書くべき事項を列挙できる。
  • (3)選択した研究デザインに合うサンプリング方法を説明できる。
  • (4−1)理学療法分野でよく使われる統計手法を説明できる。
  • (4−2)自己の研究計画に合う統計手法を選択できる。
  • (5)自己学習のための教材を選ぶことができる。
略歴
2003年 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター附属リハビリテーション学院 卒業(理学療法士免許)
2010年 大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科博士前期課程 修了
2013年 大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科博士後期課程 修了(保健学博士)
2003年−2011年 医療法人ペガサス 馬場記念病院
2011年-現在 四條畷学園大学リハビリテーション学部
研究業績:論文50編以上、科研費獲得3回(代表)
三谷 保弘(関西福祉科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻)

最善の理学療法を提供するには、多くの論文を読むことはもとより、自らの研究により臨床疑問を解決する必要がある。得られた研究成果は、世間に公表し第三者からの様々な意見や指摘を受けることが望ましい。これにより、自らの考えを修正し発展することができ、さらには理学療法におけるエビデンスの構築にも貢献することができる。ただし、素晴らしい研究成果が得られたとしても、正しい方法で伝えなければ他者にとって有益な情報とはならず、ましてや自らの価値観にとらわれ偏った内容ばかりを公表してはミスリードを招き、社会にとって不利益をもたらす可能性があることを忘れてはならない。

研究成果の公表の場として、関連する学際領域での学会発表ならびに論文がある。学会発表は一般的にポスター発表と口述発表があり、いずれも限られた時間内で研究成果を発表する。時間に制限があるが故に、多くの情報を詰め込み過ぎずに端的に述べる必要がある。図や表を上手く活用し、色合いや文字のフォント等にも気を配り、分かりやすい発表を心掛ける。可能であれば動画やアニメーションを用いることも有効である。分かりやすい発表であるほど活発な討議へと発展し、多くの助言やコメントが得られやすい。

研究成果を論文にて公表する場合は、研究内容を詳述し必要な情報を漏れなく記載する。論文の構成は概ね「はじめに、方法、結果、考察」からなる。「はじめに」では先行研究を踏まえて研究背景と目的を明確にする。「方法」や「結果」は、第三者が追試、検証できるように詳しく記載する。「考察」は、結果を十分に吟味し新たな知見などについて論理的に記述する。ただし、論理の飛躍がないよう十分に注意する。論文の記載内容は、シングルケーススタディのCARE声明、観察的疫学研究のSTROBE声明、ランダム化比較試験のCONSORT声明も参考にされたい。

研究活動では、データの捏造や改ざん、盗用は重大な不正行為となる。また、二重投稿や分割出版(サラミ出版)、不適節なオーサーシップ、各義務違反などは行ってはならず、適切に研究成果を公表しなければならない。論文の文字数や図表の数は学術誌の投稿規定に従う必要があり、投稿規定を熟読したうえで準備を進める。投稿した論文は、査読によって厳しく審査される。そして、査読者からのコメントに基づき論文を修正し、改めて査読が行われる。最終的に論文が採択・掲載されれば研究成果が世間の目に触れることとなり、理学療法への貢献度も大きいと言える。

これらを踏まえ、理学療法士が研究成果を公表することの意義と、研究成果の公表の場となる学会発表ならびに論文投稿の方法について概説したい。

【研究内容等】

各種計測機器を用いた運動器障害理学療法領域における運動療法の有効性の検証

研究業績等: http://researchmap.jp/read0151289

本研修の狙い
研究成果を公表することは第三者からの様々な意見や指摘を受けることとなり、自らの考えを修正し高める絶好の機会となる。これは理学療法のエビデンスを構築するうえでも重要なものとなる。
本講義では、理学療法士が研究成果を公表することの意義と、研究成果の公表の場となる学会発表ならびに論文投稿の方法について解説する。
  • (1)理学療法士が研究を行い、研究成果を公表する意義について学ぶ
  • (2)学会発表の形式(ポスター発表・口述発表)と発表に向けた準備について学ぶ
  • (3)学会での分かりやすい発表方法について学ぶ
  • (4)学術論文の構成について学ぶ
  • (5)論文執筆のポイントや留意点について学ぶ
  • (6)学術誌への論文投稿の方法について学ぶ"
身につける能力
  • (1)理学療法士が研究成果を公表する意義と目的が理解できる
  • (2)抄録の執筆やスライドあるいはポスターを作成し、学会発表ができる
  • (3)学術論文の構成と書き方について理解し、論文執筆のスキルアップを図ることができる
  • (4)学術誌への論文投稿に向けた準備を進めることができる
略歴
平成9年徳島医療福祉専門学校理学療法学科卒業、理学療法士免許取得。急性期病院、理学療法士養成校での勤務を経て、平成24年から関西福祉科学大学保健医療学部リハビリテーション学科に着任、現在に至る。
平成18年に大阪体育大学大学院博士前期課程を修了(修士(スポーツ科学))、平成21年に国際医療福祉大学大学院博士課程を修了(博士(保健医療学))。現在、運動解析手法を用いたスポーツ理学療法領域での運動療法の有効性や妥当性について研究している。また、スポーツ選手の傷害調査ならびにコンディショニング指導を行っている。

事務局

第31回大阪府理学療法学術大会 事務局

一般社団法人 大阪府理学療法士会生涯学習センター
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