第31回大阪府理学療法学術大会

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課題の明確化-運動器理学療法のための画像評価

浅野 昭裕(中部学院大学 看護リハビリテーション学部理学療法学科)

整形外科を受診すると、すぐに「はい、レントゲン」と言われるほど、画像情報は重要で一般的である。レントゲン(単純X線像)だけでなく、CT、MRI、最近では超音波画像もよく用いられる。医師がこれらの画像を診断や経過の把握等に用いるのに対し、我々理学療法士は独自の視点で読影し、適切な理学療法のために利用することができる。今回は主に単純X線像について説明する。

整形外科で撮影される単純X線像はほとんどが骨を投影するものであり、軟部組織は明確には描出されない。しかし理学療法士が対峙する運動器の主な問題は疼痛と可動域制限であり、多くは軟部組織の瘢痕化や癒着に由来する。投影されない組織が疼痛や可動域制限の原因ならば、それらを「読む」目が必要となる。骨折の単純X線像では、骨折形から外力の加わり方と方向とを判断し,受傷時に併発した軟部組織の損傷を推測できる。その推測には正しい解剖学の知識が必要であり,投影された骨画像の上に筋の付着をイメージできることが求められる。さらにその画像から、再び立体をイメージする能力も必要である。

例えば上腕骨大結節骨折の場合、骨折形により圧縮力が加わったのか、離開力が加わったのかを判断できる。前者の骨折線は骨幹長軸と平行に近い直線で、剪断骨折となる。後者では腱板の付着部が小さく剥がれて浮き上がる裂離骨折となる。ともに転位がない場合、治療に難渋するのは前者である。なぜなら、前者は受傷時に大結節が肩峰に衝突するため、両骨間に介在する腱板や滑液包が損傷している可能性があるのに対し、後者ではそのような軟部組織の損傷は生じないからである。従って剪断骨折に対する理学療法では瘢痕や癒着の存在と仮骨の存在とをより考慮し、アプローチの方法と時期とを考える必要がある。

大腿骨転子部骨折の場合、十分な内固定を得れば手術翌日から全荷重となる。しかし、多骨片骨折であれば内固定が得られない骨片も存在し、その部位は保存療法と変わらない。小転子骨折がある場合、その骨片に付着する腸腰筋の働きに注意する必要がある。同筋はベッド上での移動や坐位で下肢を持ち上げる際にも働くが、荷重時にも緊張を高める。手術翌日からの全荷重では腸腰筋が小転子骨片を引っ張って強い疼痛を生じさせているかもしれない。たいていの場合、そのような疼痛が生じるのは画像上で小転子の転位が小さい症例である。大きく転位した症例ではすでに骨片間の連続性がなく疼痛は生じないが、動的安定性は喪失している。早期荷重にはこのようなリスクが生じていることを、理学療法士は画像から読み取ることができる。

理学療法士としての読影力は、このようにリスクの回避や機能予後の予測に役立つだけでなく、リハチームの中で理学療法士の専門性を示し、また医師との共通言語を得ることにより高いレベルでのディスカッションを可能とする、ぜひ身に付けたい能力である。

本研修の狙い
  • 四肢の外傷に対し適正な理学療法を行うために必要な、運動器の単純X線像の読影について学ぶ。
  • 運動器における超音波画像の現状を知り、有用性と今後の可能性を理解する。
  • 単純X線像や超音波画像の読影力が医師とのコミュニケーションのために必要であり、レベルの高いリハビリテーションチームを作るために身に着けるべき能力であることを理解する。
身につける能力
  • 四肢の単純X線像の撮影肢位がわかる。
  • 四肢の単純X線像から骨の状態がわかる。
  • 四肢の単純X線像から筋や靱帯を想像できる。
  • 骨折の形から外力の加わり方が分かり、軟部組織の損傷を推測できる。
  • 単純X線像から手術の狙いがわかり、手術の状態が想像できる。
  • 単純X線像からの情報をもとにして、理学療法を立案できる。
  • 運動器における超音波画像の現状を知り、理学療法における有用性と可能性とを理解できる。
略歴
国立療養所東名古屋病院附属リハビリテーション学院 理学療法学科 卒
S61~H28.3. 碧南市民病院 リハビリテーション室長
H28.4.~   中部学院大学看護リハビリテーション学部 理学療法学科教授
運動器専門理学療法士 整形外科リハビリテーション学会 代表理事
修士(社会福祉学)
著書:運動療法に役立つ単純X線像の読み方、整形外科運動療法ナビゲーション(責任編集)など

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