第31回大阪府理学療法学術大会

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臨床・教育・研究における人財育成の課題の明確化

千住 秀明(結核予防会複十字病院 呼吸ケアリハビリセンター)

臨床現場の課題は慢性閉塞性肺疾(COPD)と診断され、気管支拡張剤は処方されているが、呼吸リハビリテーションが処方されない患者が多いことである。日本呼吸器学会は、COPD診断と治療のためのガイドライン第5版においても、COPDの治療管理目標に現状の改善(①症状およびQOLの改善、②運動耐容能と身体活動性の向上および維持)と将来リスクの低減を挙げている。安定期COPDの重症度に応じた管理では、気管支拡張剤(LAMA, LABA)と治療開始と同時に呼吸リハビリテーションが推奨されている。当院には24名の呼吸器専門医が所属しているが、COPD患者に気管支拡張剤と呼吸リハビリテーションが共に処方された患者は62.8%に過ぎなかった(2014)。現在、COPD患者の呼吸リハビリテーション処方は72.4%まで改善したが、未だに27.6%の患者が呼吸リハビリテーションを受けられずにいる。この原因は、医師も患者もCOPDの管理に呼吸リハビリテーションが必要なことが理解されていないのではないか思われる。

我われは、COPDと呼吸リハビリテーションの認知度を一般市民約3,000人に行った。COPD、呼吸リハビリテーションの認知度では「知っていた」と答えた者は、それぞれ18%、9%と著しく低かった。COPDや呼吸リハビリテーションの啓発活動に関わる人材の育成が急務である。

教育現場では、卒前教育の中で呼吸理学療法を学ぶ機会が不足している。特に臨床実習では、呼吸器障害の患者を担当する機会が少ない。石坂らの理学療法士養成校最終学年度の臨床実習における担当症例の疾患名では、脳血管障害等41%、運動器疾患40%、心大血管疾患6%、呼吸器疾患2%である。田中らの内部障害を担当した学生に対する意識調査では、「以前に内部障害を担当したことがあるか」が0で、「実習は学習になったか」では全例がはいと答えている。一方、「学校で修得した知識は生かせたか」は、10例中「はい」と答えたものは1例のみであった。学内教育においても臨床実習現場においても卒前教育の中でも呼吸理学療法の機会が極めて少ない。

卒後教育では、日本理学療法士協会、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、呼吸器学会などが主催する多くの研修会が企画され、学会が認定士や指導士の資格を与えている。例えば、3学会合同呼吸療法認定士は、看護師が26,143名(52.1%)で、理学療法士は15,797名(31.5%)である。日本呼吸ケア・リハビリテーション学会が認定している呼吸ケア指導士は、理学療法士43名(47%)、看護師21名(23%)など、卒後に資格を取る理学療法士も少なくない。教育分野では卒前教育の中で呼吸理学療法を学ぶ機会を増やすことが課題である。

研究領域では、理学療法士養成課程が学士教育となり、修士や博士号をもつ理学療法士が急増している。わが国の理学療法士の研究もERSやATSのガイドラインに引用されるレベルまでに到達した。今後は、その数を世界の理学療法士のレベルまで高められる大学院教育を担う研究者の育成が急務である。

本研修の狙い
  • (1)理学療法分野の中で最も歴史ある呼吸リハビリテーション分野の普及と発展が遅れた原因を学ぶ。
  • (2)呼吸分野の教育・研究領域における人材育成の問題点につい検討する機会を学ぶ
  • (3)呼吸分野の臨床現場における人材育成のための課題を学ぶ
  • (4)呼吸分野の「臨床・教育・研究における人財育成の課題」を明確化することで呼吸リハビリテーションに理学療法士がどのような役割を果たすことができるか考える機会を与える。
身につける能力
  • (1)呼吸リハビリテーションの歴史を知るすることができる
  • (2)呼吸リハビリテーションの重要性を理解することができる
  • (3)教育・研究療育の領域で活動する理学療法士に「臨床家マインド」の重要性を知ることができる
  • (4)臨床分野で活動する理学療法士が「研究者マインド」の重要性を理解することができる
  • (5)呼吸領域での理学療法士に求められる能力は何かを知ることができる
  • (6)理学療法学発展に寄与するためには何が必要かを提案できる
略歴
1974年 3月 九州リハビリテーション大学校卒業
     4月 星ヶ丘厚生年金病院勤務
1976年12月 国立療養所近畿中央病院
1986年 4月 長崎大学医療技術短期大学部 講師
1999年 7月 医学博士(長崎大学医(医)乙1548号)
2000年12月 Curtin大学 理学療法学科留学(文部省在外研究員)
2001年10月 長崎大学 医学部 保健学科 理学療法学専攻教授
2009年 5月 社団法人日本理学療法協会 協会賞受賞
2010年 4月 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 教授
2015年 3月 長崎大学定年退職(長崎大学名誉教授)
      4月 複十字病院 呼吸ケアハビリセンター 部長
2016年 1月 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系専攻抗酸菌感染症学講座連携
大学院教授

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