第31回大阪府理学療法学術大会

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課題の明確化-AI時代に求められる“決める力”と“真の研究力”

藤本 修平(株式会社 豊通オールライフ)

昨今、人工知能(Artificial Intelligence:AI)の活用により様々なサービスが生まれ、我々の生活の効率化が実現されている。日本の医療においては、インフルエンザや乳がんの画像診断といった画像診断系AIを筆頭に、問診アプリやロボティクスにも応用され、世界中で注目を浴びている。

AIを活用する上で理解しておくべき事項として、「責任の所在」がある。保険医療分野におけるAI活用は、診療の意思決定を行う医療者(主に医師)の判断に基づくという通達が出された一方で、日常生活では市民の責任のもと意思決定を行わなければならない。すなわち、医療者の一員である理学療法士かつ市民でもある我々にとっては、その意思決定能力が問われている。

ここで、医療者、または人は合理的に意思決定をすることができるのだろうか、という疑問が浮かぶ。理学療法士は提供するサービスに対する意思決定能力には長けているはずであるが、それに至る教育は少なくとも私は受けたことがない。また当然、人には感情や価値観が存在し、同じ事象に対しても意思決定が異なることは言うまでもない。

常に合理的な意思決定を行えない、むしろ我々の意思決定は非合理的であることは想像に難くない。そのような中で、どのような条件が揃えば、”ある程度”合理的な意思決定を促せるだろうか。特段、医療における意思決定は不確実性をはらむ分、合理的な判断をしにくいし、その非合理性の連続により合理的になることさえある。

合理的な判断を行う上では、適切な知識をもとに人が持つ思考の癖を理解することで、俯瞰的に自分の意思決定を見ることができるかもしれない。思考の癖は、”バイアス”とも置き換えて表現できる。

例えば、組織内で研究をしている人に研究方法を聞くのはデフォルトであろうが、そもそも研究をしている人は研究能力があるのだろうか。また、悲しい時、怒っている時に移した行動で後悔することも多いと思うが、なぜ後悔が起きるのだろうか。本講演では、このような意思決定におけるバイアスについて簡単に説明した上で、人がどのような思考に陥りやすいか考えるきっかけを作り、患者にバイアスの押し付けをしていないか振り返ってほしい。

以上のように、難しく、冗長に講演内容の概略を記載してきたが、なんとなくわかったようでわからない人も多いだろう。これが尤も”らしさ”である。そもそも上記すら私のバイアスの中で示されたものに過ぎないかもしれない。私含め、尤もらしいことを尤もらしく話す講演者を批判的に吟味できる素養をつけるべきかと思う。人は、新しもの好きな側面と排他的な側面の両面を持つ。また尤もらしさで信用し、尤もらしくない時に否定的になる。医療者は情報を扱う職業である。情報を”活用”するためには、尤も”らしさ”に惑わされないスキルを身につけることが求められる。

本研修の狙い
  • (1)AIをはじめ手段や情報が多様化する中、情報に対して意思決定を行う場合に、自分がどのような思考のクセ(バイアス)を持っているか学ぶ
  • (2)大学教員、研究者といった肩書き=信用できることを発信している/研究ができるという鵜呑みにせず、そのひとの言っていることや研究の質を見極める能力をつける必要性を学ぶ
身につける能力
  • (1)自分が無意識のうちに陥る思考のクセに気づくことができる
  • (2)情報や研究の質を見極める基準を理解することができる
略歴
2009年に理学療法士免許を取得し、脳卒中患者を主とした臨床現場に約7年間従事。2015年からは株式会社メドレーなどヘルスケアITベンチャーの新規事業開発に参画。2017年より豊田通商グループに入社し、自費のリハビリテーションサービスの立ち上げ/チーフマネージャー、およびヘルスケアITの新規事業に関わる。2018年にはサスリー株式会社を起業し、Chief Strategic Officer(CSO)としてIT企業の経営に携わっている(豊田通商グループと兼業)。また、同時期に京都大学大学院医学研究科のプロジェクト研究員に就任。2019年には京都大学でビッグデータ解析論文により博士(社会健康医学)を取得。論文業績は約50編。会社員、経営者、研究者に加えて、個人事業としてヘルスケアおよび病院での新規事業開発に向けたマーケティング、エビデンス創出、労務について、25法人のコンサルタントを受託。現在、日本理学療法士協会・診療ガイドライン用語策定委員会アドバイザーを務める。

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