臨床・教育・研究における人財育成の課題の明確化
物事を学ぶとき、今だけを求めても好ましくはない。なぜ今があるのか、歴史を辿ってみる必要がある。教育ではそのことに時間を割かなければ同じ失敗を繰り返す可能性が高くなる。特に中枢神経系の理学療法にあってはこれまで基礎を含めて体系だった学問が疎かになっている領域であり、留意しなければならない。近年、卒後5年以下の理学療法士たちに尋ねてみて驚くべきことが生じている。「上田敏」という名前を知らない、「Hirschberg」という名前を知らないという理学療法士が90%以上であるということ。一方で、「Bobath」という名前を知っている理学療法士は100%であるという事実。さらに、理学療法士が最も責任を持っていると思われる「股関節」を定義できない理学療法士が圧倒的に多いということも含めて、人材育成の入り口である教育における問題をまずは指摘しておきたい。
臨床には問題は山積している。目の前の患者の問題を明確化、すなわち客観的に言語化して、その原因を特定していくことが何よりも重要である。原因が分からなければ適切なアプローチを考えることもできないだろう。たとえば脳卒中患者では、その多くは脳に原因を含んでいると思われるが、残念ながらそれを理解するための教育は皆無に等しい。理学療法モデルとしての脳の知識や解剖学の知識が叩き込まれていないと、紐は絡みさえもしない。絡んでいないものを紐解くことはない。絡む教育を臨床では心掛けていきたい。そして紐解くための基本的な知識を与え、且つ、自ら学ぶ喜びを教えていくことが大切である。人材育成としてそのようにリーディングするためには、自らが日々努力と進歩を重ねていかなければならない。
研究もそのような環境の中で生じた疑問を解決していく手段として展開されるのが最も活き活きとしたものになると考えている。
わが国で初めての理学療法士の誕生は1966年、183名であった。50年余りの歴史は15万人という理学療法士を産んで、それなりの質の蓄積も残してきた。中枢神経系においても相当の人材育成がなされてきていなければならないと思うが、現状には疑問を感じざるを得ない。
その解決のためにどう取り組むか、私見を述べてみたい。
- 本研修の狙い
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- (1)過去・現在・未来を見つめて中枢神経系の課題を整理する
- (2)臨床・教育・研究各領域において課題に取り組むヒントを学ぶ
- (3)マネージメントとリーディングとの違いを学ぶ
- (4)臨床・教育・研究各領域におけるリーダーとしての姿勢を学ぶ
- 身につける能力
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- (1)過去・現在の中枢神経理学療法を振り返り、各領域における課題を知ることができる
- (2)ニューロリハビリテーションやロボティクス、再生医療等に応えるためのヒントを得る
- (3)自分はマネージャーなのか、リーダーなのか、その両者なのかを知ることができる
- (4)自分自身のリーダーとしての自分の課題やその解決方法を考えることができる
- (5)組織のリーダーとしての人材育成方法を具体的に考えることができる
- 略歴
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1974年 九州リハビリテーション大学校理学療法学科卒業 その後、中国労災病院、星ヶ丘厚生年金病院、有馬温泉病院、協和会病院で勤務
1988~1995年 兵庫医科大学第生理学講座研究生
1994年 札幌医科大学保健医療学部講師
1994年 大阪学院大学商学部卒業
1995~2006年 札幌医科大学医学部解剖学第二講座研究員
2002年 学位取得(博士、医学)
2003年 札幌医科大学保健医療学部教授
2007年 死体解剖資格
2006年 千里リハビリテーション病院副院長
2013~2019年 日本神経理学療法学会代表運営幹事